新型コロナ対応緊急助成・第2次緊急応援助成団体訪問取材③(キッズカフェ杉田、フードバンク浜っ子南)

Ⅰ.キッズカフェ杉田


子ども食堂「キッズカフェ杉田」を主宰する久保田顕さんは、プロテスタント教会の牧師さんである。京浜急行杉田駅から歩いて3分ほど、小高い丘の中腹に杉田教会はある。久保田さんは3年前に、教会を地域に開放して、子どものための居場所・子ども食堂を始めた。その頃子ども食堂が全国的に広がりを見せ、テレビで特集番組が放映された、それを見て自分でもやってみようと思ったそうだ。自分自身の子ども時代も決して経済的には豊かではなかった、そんな思いもあって取り組んだ。始めた当初は参加する子どもは少なかった。2~3人の時もあったが、毎月1回定例開催する中で、徐々に参加者が増えたという。今年の1月、2月の子ども食堂には40~50人の親子や子どもたちが集まった。


新型コロナで3月の子ども食堂は中止とした(その後6月まで、4ヶ月間も休止となった)。しかし、すぐに子ども食堂から食品配布活動(フードパントリー)に切り替えた。3年間継続したことで子どもたちや親御さんたちとのコミュニケーションを深めていたので、すぐにLineで呼びかけ、希望のあったお宅まで届けることにした。食品はフードバンク横浜やフードバンクかながわ、磯子区社会福祉協議会からの寄贈品で確保できた。

 4月以降も「生活応援活動」と銘打って、月2~3回(毎月15~25組)の食品配布を続け、子ども食堂が開始された7月以降は月1回(毎月15組ほど)、食品を家庭に届けている。


 訪問した7月25日は小雨が降ったりやんだりの生憎の天気、しかし約4カ月ぶりの子ども食堂の再開だ。この日のボランティアスタッフは7人。参加者の声掛けを受け持った人が2名。5人は開始30分前には集まり、早速事前打ち合わせを行う。

ミーティングに参加した5人は、料理担当2人(メニューはカレー)、配膳担当(中学生男子スタッフが担当した)、受け付け、子どもに同行した父親との対話担当と、それぞれの役割が決まった。

代表の久保田顕さんは今年から子どもが通う小学校のPTA会長を引き受けることにした。磯子区子ども食堂ネットワーク(7団体で構成、区社協が事務局)の代表も創設以来務めている。

コロナ対応上の注意は細部にわたる。受付ではアルコール消毒と体温チェック。すぐに2階で食事だが、密を避けるために席を空けるなどの工夫。食事が終わると、子どもたちは1階の広い礼拝堂の一角に来て、お絵かきかビデオ鑑賞。


 『教会をもっと地域に開放したい。キッザニアのような、こどもが社会のしくみを学ぶ場を、磯子区の中で作れないか。そのためには企業も含めて地域のさまざまなアクターが手を携えることができるような場をつくれたらいいと思う』

 地域の居場所づくりを志す人は「場所」でいつも悩んでいる。キッズカフェ杉田は教会という常設の拠点があり、その意味ではアドバンテージを持っている。 活動を3年間継続することで参加も広がり、ネットワークも広がってきた。8月からは子どもに対する学習支援も予定している。

 活動の共有は、地域密着で行うのが良いが、まだまだ常設型の居場所は少ない。自由で発想豊かに活動している居場所が集まり、自分たちの活動をアピールする場(例えばフォーラムなど)を区単位で開催できれば、地域の課題を発掘・発信・共有する場になるだろうと思う。かながわ生き活き市民基金として、そのような企画づくりに取り組んでみたいと思った。

(文・写真:大石高久)

Ⅱ.フードバンク浜っ子南

フードバンク浜っ子南は、約2年間ひとり親支援活動に取り組んできた5人の仲間で立ち上げた団体だ。設立は2020年6月、設立ほやほやだ。7月26日は団体活動の旗上げの日だ。戸塚区役所総合庁舎内にある多目的小ホールで浜っ子南としては初めてのひとり親への食支援活動を行った。

5人のメンバーは夫々フードバンク横浜に参加し、ひとり親支援活動を中心に経験を蓄積した。中区・神奈川区・戸塚区・金沢区の4区で登録制の食支援活動を行ってきた。月1回開催することで参加者とも顔見知りになり、相談相手ともなってきた。


代表の下山洋子さんは、フードバンクかながわ(注)の取材に応えて、次のように話している。

『新型コロナの感染拡大に伴い支援者が急増し、2月の40件から3月60件、4月は90件、5月は130件と、2月の3倍に増加した。実態はそれ以上の問い合わせがあるのだが、青葉区・都筑区など配布会場の中区から遠いエリアのため、あきらめた人も居る。二俣川から子どもを連れて自転車できた人もいた。みんな切羽詰まっている。食べものがある安心が必要、近くにフードバンクがあればと思った』『夜遅くメールしてくる人が多い。仕事を終え、子どもの世話をし、自分の時間は遅くなるのだと思う。食品を持ち帰った後「久しぶりに子どもと笑いながら食卓を囲みました」というメールが来たりして、こちらも励まされることが多かった』

事務局の野田康行さんにフードバンク活動に関わるようになったキッカケを聞いた。大手電機会社等で68歳まで仕事をした。写真が趣味であちこち旅行をしていたが、何かできることがないかと探していた中で出会ったのがフードバンクだったという。メンバー5人で新たな組織を立ち上げることになり、食品のストックスペースの確保、ホームページの立ち上げ・メールシステムの整備など、多忙を極めた。『現役の頃も家でこんなに仕事をしたことがなかったなー』とにっこりと笑う。

当面は戸塚区役所内のホールを借りて、月1回のフードパントリーを行うということだ。困っているのは寄贈を受けた食品のストックスペースだ。いまはメンバーの家などで保管しているが、とても足りない。8月からはレンタルルームを借りることにした。月額使用料は38,500円だ。寄付はあるが殆どは助成金とメンバーの拠出だ。

横浜市内の地域で活動するフードバンクは、お福わけの会、フードバンク横浜、神奈川フードバンク・プラス、食支援ネットかながわ、そして浜っ子南の5団体だ。


2019年国民生活基礎調査(厚労省)によれば、ひとり親家庭の相対的貧困率は48.1%。改善の兆しは見られない。ひとり親家庭への支援は現在のところ市民活動主導だ。自治体行政の“感度”は悪い。フードバンクは分ちあい社会のインフラのひとつで、市民の自発的活動を応援する公共政策はぜひとも必要だと思う。

7月から横浜市は市内のひとり親家庭を対象とした食料支援活動を始めた。これにはフードバンクかながわも協力(コメの無償提供)している。横浜市が予算化し食支援を行う初めてのケース(事業費2000万円)である。今後を注視していきたい。


 浜っ子南の活動エリアは横浜南部5区(磯子区、港南区、栄区、戸塚区、南区)だ。いま一番必要なのは食品をストックする倉庫だ。フードバンクは“収益事業”を行っていない。活動を継続し、市民同士の分かち合いを社会に根づかせていくためには、寄付文化を更に広めていかねばならないと思う。市民基金も、その一助を担っていきたい。

 注:フードバンクかながわは2018年4月に、協同組合・労働団体・市民団体によって設立された
 https://www.fb-kanagawa.com/