新型コロナ対応緊急助成・第2次緊急応援助成団体訪問取材④(ファミリア、ユニバーサル絵本ライブラリーUni Leaf)

NPO法人ファミリア(横須賀市・第11期福祉たすけあい基金助成団体)

知的障害と発達障害の子どものためのオンライン学習支援

京急長沢駅から徒歩1~2分、駅のホームからも見下ろせる場所に児童発達支援事業・放課後等デイサービス施設「トータスキッズ」がある。知的障害と発達障害の子どもと家族支援として、個別による専門性の高い未就学児の早期療育と小学校から高校まで途切れることのない支援で自立と就労に向けた力を育むことを目的に、2019年4月よりNPO法人ファミリアの事業の一環として開所した。理事長の高橋嘉誉さんは自らの発達障害の長女の子育て経験と学びを還元する場として2010年から個別支援による療育を開始。現在では6名の支援スタッフが通年を通し日々1時間の枠で個別支援に対応する。子供への効果的な支援環境を確保するため、保護者のサポートや連携を常に大切にしている。ビルの3階にある施設のフロアは、3つの個別支援スペース、職員室、個別支援にも対応できるフリースペースとパーテーションで仕切られている。訪問した日の午前中は2組の園児の個別支援中で、3畳ほどのブースから支援者のテンポ良い元気な声が聞こえてきた。

コロナ禍で子どもたちと家族の生活が大きく変化した。2月3月には感染リスクを懸念し通所をやめる人が増加。支援者自身も感染を懸念したり、学童の閉鎖で子育て中の支援者が勤務できなくなるなど、事業所も混乱。そのような中でも、希望する方への支援は続けていた。子どもたちと家族を支援する中で、「幼稚園も休校、公共施設も閉鎖。どこにも行くところがない」「せっかく社会性が芽生えてきたところなのに」と自粛続きの生活の辛い状況が浮き彫りになってきた。このような中で4月からZoomを使ったオンラインによる療育相談と学習支援を開始した。東京横浜では保護者向けのオンライン相談こそ見受けられるが、発達障害児の直接支援にはほとんど活用の事例がない。しかし「コロナ禍で行き場のなくなってしまった子どもたちと家族への支援の手を止めてはいけない。もちろん全ての子どもたちにとってオンライン支援が有効だとは考えづらいが、少なくとも支援の機会をなくしてしまうということだけは避けたい」という高橋さんとスタッフの思いがオンラインによる支援という新たな試みを後押しした。

オンラインによる支援はその環境がない家庭もあれば、環境的には問題がなくても手をとっての直接介入で支援ができない等のデメリットはある。ただ、それらを理解しながらも、今できる支援を継続させることを最優先にし、子どもたちと家族、支援者が協力して一緒に学びの場をつくることへのチャレンジが始まった。始めてみると、家庭という子どもにとって安心する環境での学習支援によって、発言の苦手だった子どもが大きい声で話せるようになるなど、オンラインならではの強みにも気づいた。また、6月には地球の裏側のアルゼンチンの保護者に対するオンライン療育相談も行った。仕事の都合で赴任し、コロナの影響で帰国もできず幼稚園にも通えず、孤立した状態に陥っていた家族。療育機会を設けることができない子供と家族への支援を届けたいとの思いを受け、その後、夜8時の横須賀と朝8時のアルゼンチンをZoomでつなぎ、子どもの個別支援も行った。

学校は再開したが、コロナの影響はまだまだ続いており、日常生活に戻れる日はまだ遠い。子どもたちも家族も不安定な日々を過ごしている状況を受け、ファミリアでは療育相談と学習支援を引き続き行っていく予定だ。「子どもたちの大切な支援の機会を奪うことのないように、今後も誰もが支援を受けられる地域社会のモデルを作っていきたい」と高橋さんは語った。

ユニバーサル絵本ライブラリー UniLeaf(葉山町)

ユニバーサル絵本製作講座のオンライン化

「ユニバーサル絵本」をご存じだろうか?市販の絵本に本文を点字にした透明なシートを挟みこんだ絵本だ。目の見える人も見えない人も、一緒に読書を楽しむことができる。このユニバーサル絵本を制作し貸出を行っている団体が「ユニバーサル絵本ライブラリーUniLeaf(葉山町一色)」(以下ユニリーフ)だ。代表である大下利栄子さんがユニリーフの活動を始めたのは2008年7月。イギリスの視覚障害学校の図書館司書が、点字を学ぶ子どもたちが家族や友達と一緒に読める絵本作りを始めた「クリアビジョンプロジェクト」を知ったのがきっかけだった。イギリスから見本となる絵本を取り寄せ、試行錯誤を重ねながら製作した絵本は1,100冊を超える。

ユニリーフではこれまで葉山町に隣接する逗子市で市民を対象に初心者向けのユニバーサル絵本製作講座を開催してきた。視覚障害に関する講座が少ないこともあって、東京都や近県からの参加者も多いそうだ。また、市内にある神奈川県立逗子高等学校でも10年以上にわたり、主に1年生を対象とした講座やボランティア部の活動の講師として、若い世代への点字に触れる人のすそ野を広げている。講座では点字のしくみを知って、実際に一人1ページずつ点字を打って、みんなで1冊のユニバーサル絵本に製本する。「技術習得よりもむしろ、作り手が絵本の製作を通して読み手の気持ちに沿えるようにと考えて行っています」と大下さん。

今年1月に開催した市民講座に参加していた私立三浦学苑高等学校(横須賀市)の生徒二人が、講座終了後に自分たちに何かできることはないかとの思いから、ユニバーサル絵本製作講座の学校での開催計画を申し出てくれた。二人が大下さんと学校とを繋ぐ役割を担い、同学苑での講座開催を企画し、これには高等学校の先生のサポートも得られることになった。ところがコロナ禍で従来の形では講座が開催できなくなってしまった。そこで今回の新型コロナ第2次緊急応援助成を活用して、リモートによるオンラインでの開催に切り替えた。細かい点字の添削も大きなモニターで対応できるように再計画を行った。三浦学苑高等学校での講座には二人の呼びかけで十数名の参加希望者が集まり、8月21日、22日の2日間で開催された。また、東京家政大学のゼミからユニバーサル絵本の製作体験講座の開催希望もあり、点字のしくみ解説の動画を制作し、ゼミ生向けのオンライン講座も9月5日に開催する予定だ。

若い世代への啓発活動は着実に実を結んでいる。前述の高校生二人が、7月から絵本の貸し出し作業のボランティアに加わった。ゆくゆくは利用者との点字の手紙のやり取りができるようにと意欲を持って頑張っているという。子どもたち、若い世代の人々が、見える人も見えない人も一緒に絵本を楽しむ、そんな経験を重ねていくことが大切なのだろう。一冊の絵本を間において、共に生きていく社会づくりにユニリーフの活動が大いに貢献している。